日本の金融機関
オーストラリアにおける環境破壊を伴う支援
写真:ボーエン盆地の炭鉱と周辺地域
クレジット:Greenpeace/Tom Jefferson
イントロダクション
2008年以降、日本の金融機関はオーストラリアの化石燃料事業に400億豪ドル(約3兆556億円*)を支援してきた。この支援規模はオーストラリアの主要銀行による支援金額に次いで2番目に大きい。
*参考:2016/7/6時点での豪ドル=約76.39円で換算した日本円
歴史的に見ると、日本の金融機関の支援のほとんどは石炭事業に対して行われてきた。最近では、日本の大手企業の何社かがオーストラリアでの液化天然ガス(LNG)の採取と輸出に乗り出しており、オーストラリアのLNG事業の急成長には日本の金融機関の支援が欠かせない存在となってきた。
石炭、LNG、その他の化石燃料のいずれが対象であっても、日本の金融機関からの支援を受けたこれらの事業において、環境や野生生物、気候変動への悪影響が度々発生している。

関与している金融機関
(2008年以降)
輸出信用機関 | 支援額(100万豪ドル) | 融資契約件数 | 銀行にメッセージを送信 |
---|---|---|---|
三菱UFJフィナンシャル・グループ | $12,109 | 106 | Eメール |
国際協力銀行(JBIC) | $9,172 | 9 | Eメール |
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) | $8,652 | 80 | Eメール |
みずほフィナンシャルグループ | $7,922 | 65 | Eメール |
三井住友トラスト・ホールディングス | $569 | 11 | Eメール |
日本政策投資銀行(DBJ) | $404 | 4 | Eメール |
新生銀行 | $134 | 3 | Eメール |
あおぞら銀行 | $112 | 4 | Eメール |
農林中央金庫 | $65 | 2 | - |
千葉銀行 | $47 | 2 | - |
野村證券 | $42 | 1 | - |
大和証券グループ | $6 | 1 | - |
環境コスト
日本の金融機関は、オーストラリアにおける化石燃料事業への主要な支援機関として、石炭およびガスの探査、生産、輸送および燃焼に起因する広範囲な環境破壊に加担している。
特に石炭産業は、巨大な露天掘り炭鉱を掘るため、オーストラリアで有数の美しい自然地域の環境破壊し、原生植物や野生生物を死に追いやることの原因となっている。
未開発地域における石炭採掘によって生息地が失われることで、既に個体数が少なく「危急種(VU: 絶滅危惧II類)」に分類されているコアラの数は著しく減少してきた。三菱UFJフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループの融資により、コアラの大切な生息地であるニュー・サウス・ウェールズ州北部に位置するレアード州有林(Leard State Forest)の一帯は根こそぎにされ、露天堀炭鉱へと改変されてしまった。
オーストラリアの石炭やガスの生産およびインフラ事業はまた、セスジワラビー(カンガルーの一種)やカモノハシを含めた他の危急種の生息域を脅かしている。

Koala in the Leard Forest
Credit: Greens MPs

Coal mining in the Leard Forest
Credit: David Mould
オーストラリアの化石燃料産業による環境への影響は、採掘によって破壊される森林、農地および生態系に留まらない。世界の素晴らしい自然の一つであるグレート・バリア・リーフは、石炭およびガスの輸出事業によって工業化が進むにつれ壊滅的な影響にさらされおり、何年間も“危機的な”世界遺産として厳しい状況に置かれている。
グレート・バリア・リーフはまた、二酸化炭素(CO2)排出によって悪化する気候変動や海洋の酸性化の脅威にさらされている。2016年の夏、リーフ北部のサンゴ礁の半分では今だかつてないほどの白化現象が進んでいることがわかり、史上最悪の状況であると確認された。

Abbot Point coal port in the Great Barrier Reef World Heritage Area. Credit: Greenpeace / Tom Jefferson

Coral bleaching in the Great Barrier Reef
Credit: Matt Keiffer
ヘーゼルウッド・ブラウン(Hazelwood brown)石炭火力発電所は、一般的な石炭火力発電所と比べてエネルギーあたり約2倍ものCO2を排出するオーストラリアで最も温室効果の高い発電所である。
しかし、2014年2月、ヘーゼルウッド発電所に石炭を供給している炭鉱で火災が発生し、モーウェル(Morwell)の町を含む周辺地域と住民は45日間も有害な煙に包まれ、健康被害にさらされた。
2013年10月、三井物産株式会社はヘーゼルウッド火力発電所の株28%を購入した。そして、壊滅的な火災事故のわずか3か月後の2014年6月、三菱UFJフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループがオーストラリアで最も汚染のひどいこの石炭火力発電所に対し、1億5000万豪ドル(約115億円*)の貸付を行った。
*参考:2016/7/6時点での豪ドル=約76.39円で換算した日本円

2014年2月 ヘーゼルウッド露天堀炭鉱の火災―CFAコミュニティー&コミュニケーション
高まる重要性
オーストラリアの化石燃料事業に対する日本の金融機関の年間支援総額 2008-2015年
(単位:100万豪ドル)

全体として、2008年以降の日本の金融機関の支援額は急激に増加しており、2012年、2013年、2015年に急な伸びを示している。これらは、ウィートストーン(Wheatstone)とイクシス(Ichthys)の2つの大きなLNG事業に巨額の支援が行われたことに起因している。ウィートストーンとイクシスへの支援合意はそれぞれ2012年、2013年に締結された。イクシス・プロジェクトは2015年に、日本の金融機関からの68億豪ドル(約5,194億円*)の支援を含めた再支援を受けている。
*参考:2016/7/6時点での豪ドル=約76.39円で換算した日本円
オーストラリアの化石燃料への支援が増えていることは、健全な環境と安定した気候には完全に相反する。環境、野生生物および気候を守るためには、化石燃料への支援を可能な限り早急に止めなければならない。
部門ごとの支援額

LNG(液体天然ガス):
236億豪ドル
(1兆8,028億円)

石炭:84億豪ドル
(6,417億円)

ガス:69億豪ドル
(5,271億円)

石油:10億豪ドル
(764億円)
*参考:カッコ内は2016/7/6時点での豪ドル=約76.39円で換算した日本円
ケーススタディー
ボガブライ炭鉱
ボガブライ(Boggabri)、モールス・クリーク(Maules Creek)およびタラウォンガ(Tarrawonga)の3か所の大きな露天掘炭鉱は、ニュー・サウス・ウェールズ州北部リアード州有林の広大な土地を破壊した。
出光興産のボガブライ炭鉱は、前述3か所の炭鉱の中で最も古く、産出される石炭のほとんどは日本に輸出されている。2013年、ボガブライは国際協力銀行(JBIC)から3億5500万豪ドル(約272億円*、ただしJBICの融資金額の発表は米ドル(3億5000万米ドル)で示されている)の貸付融資を受けているが、日本の他行もこの事業への融資に関与している可能性は高い。
*参考:2016/7/6時点での豪ドル=約76.39円で換算した日本円
リアード州有林には、約400種のオーストラリア固有の動植物が生息している。さらに、この州有林はコアラやフクロネコの仲間(Spotted-tail quoll)を含む34種の危惧種の貴重な生息地でもある。

写真:ボガブライ炭鉱
クレジット:T. Pickard

イクシス液化天然ガス・プロジェクト
国際石油開発帝石株式会社(INPEX)によるイクシスLNGプロジェクトは、総投資額340億米ドルを要する、過去に実施された事業の中でも最も高額なプロジェクトであり、資金の大分部は日本の金融機関によって提供されている。
イクシス・プロジェクトの環境への影響は、資金同様に甚大である。事業者であるINPEXの推定では、耐用年数のうちに2億8000万tのCO2を排出するとしているが、これは実際にガスの燃焼が開始される前の推定である。
確かにガス火力は石炭火力よりもCO2の排出は少ないが、エネルギー集約型LNGの生産プロセスを加味したイクシスの規模を鑑みれば、地球温暖化に著しい影響を及ぼすことは確実であり、ガスが石炭よりも温室効果に及ぼす影響が少ない燃料であると考えるべきではない。
気候変動は既にグレート・バリア・リーフやオーストラリア周辺の他の脆弱な生態系に多大な損害をもたらしているが、イクシス・プロジェクトのようなLNG事業は、気候変動を悪化させる。気候変動分野の第一人者であるLesley Hughes教授は:
気候変動が原因で「フクロネズミ科のブーラミスやカオグロキノボリカンガルーなどのオーストラリアで最も愛されていながらも希少かつ絶滅が危惧される動物たちの絶滅リスクが高まることになるだろう」と述べている。
我々は、可能な限り早急にCO2排出をゼロに減らさなければならない。イクシスのような巨大な新規化石燃料事業は、この目的に全くそぐわない。
金融機関名 | 2013年の主な支援 (100万豪ドル) | 2015年の借り換え融資(100万豪ドル) |
---|---|---|
国際協力銀行(JBIC) | $5,418 | - |
三菱UFJフィナンシャル・グループ | $804 | $2,267 |
みずほフィナンシャル・グループ | $716 | $2,267 |
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) | $716 | $2,267 |
三井住友トラスト・ホールディング(SMTH) | $95 | - |
新生銀行 | $66 | - |
独立行政法人日本貿易保険(NEXI)は、日本の民間銀行による融資のリスクをカバーするための保険(27.5億米ドル)を提供している。