Home > Campaigns > Asia > 総合商社の残念な実態:再エネ競争の敗者となるか

Report

総合商社の残念な実態:再エネ競争の敗者となるか

主要な調査結果

1

日本経済の屋台骨である大手「総合商社」7社と、日本最大の発電会社であるJERAは、アジアのガス依存度を高めることで、同地域におけるエネルギー不安を悪化させている。その結果、同地域は不安定な世界のガス市場にさらされ、クリーンエネルギーへの移行が阻害されている

2

ガス発電のライフサイクル排出量が石炭発電よりも低いという主張は、ますます疑問視されるようになっている。それにもかかわらず、これらの企業はアジアにおける新たなガス発電所や、世界各地のガス輸出施設に対して投資を拡大している。これらの企業が計画している合計8GWのガス発電所が建設されれば、その稼働期間中に二酸化炭素換算で5億8400万トンの温室効果ガスが排出されることになる。これは、2022年における日本の年間排出量の半分以上に相当する。

3

計画中の8GWのガス発電容量の96%がアジアに集中している。これらの企業は、南アジアおよび東南アジアで、太陽光発電と風力発電の合計容量の8.6倍にあたるガス発電所の建設を計画している。

4

そのうちでもJERAは最大規模のガス発電拡大を計画しており、3.4GWの新規容量を見込んでいる。これは、JERAが計画している太陽光発電と風力発電の新規合計容量を612MW上回る規模である。双日は、既存のガス発電容量との比較で最大規模の増加を計画しており、83%の拡大を見込んでいる。丸紅は新規の風力・太陽光発電の分野で先頭を走っており、現在世界で4.2GWの開発を進めている。

5

これら8社は、エネルギーと電力のバリューチェーンにおいて主導的な地位を占めているにもかかわらず、日本の2030年再生可能エネルギー目標への貢献は不十分であり、既存および計画中の太陽光および風力の容量合わせてもこの2030年目標の5%程度にとどまっている。

6

これらの企業には、ガス依存から脱却するための方針や目標がない。これは、世界的な脱炭素化への取り組みを脅かすものである。この調査結果は、投資家がこれらの企業に対し、迅速に再生可能エネルギー重視の事業計画へ転換するよう促す必要があることを示している。これにより、リスクを軽減し、急速に脱炭素化が進む世界で競争力を維持することが可能となる。

エグゼクティブサマリー

いわゆる「総合商社」は大規模で多角的な取引を行う企業であり、日本経済において重要な役割を果たしている。これらの企業は、液化天然ガス(LNG)ターミナルやガス発電所などのガスインフラの拡大において大きな役割を担っており、特にアジアでガス依存度を高めることにより、同地域におけるエネルギー不安を悪化させている。

「7大総合商社」である伊藤忠商事、丸紅、三菱商事、三井物産、双日、住友商事、豊田通商は、いずれも巨大企業である。2024年10月末時点で、7大総合商社の平均時価総額は、東京証券取引所プライム市場上場企業の平均時価総額の11倍に達している。伊藤忠の時価総額は7社の中で最も大きく、米国上場のデューク・エナジーや英国上場のBPに匹敵する。これら7大総合商社は、世界中の数千の子会社や関連会社を通じて合計約50万人を雇用している。複雑で多業種にわたるバリューチェーンを管理する上で、独自の有利な立場にある。これには、化石燃料から再生可能エネルギーへの世界規模での移行における重要な役割も含まれる。

日本のガスインフラ開発企業には、2050年までのネットゼロ排出目標に沿った、ガス依存からの脱却に向けた十分な方針や目標が欠けている(目標については注1及びAppendixを参照)。 本報告書は、日本の主要な化石燃料開発企業8社、すなわち7大総合商社、および日本最大の発電事業者でありLNG取引業者でもあるJERAによる、LNGターミナル、ガス発電所、太陽光発電および風力発電の開発計画を調査したものである。

国際エネルギー機関(IEA)が公表している3つのシナリオすべてが、2040年までの世界のガス容量は十分であると明示しているにもかかわらず、これらの企業のほとんどはガスインフラの拡大を計画しており、自らを座礁資産リスクにさらしている。また、2030年以降、IEAの3つのシナリオすべてでガス発電所の稼働率は低下すると予測されている。

燃料取引と発電を中核事業とするJERAとは違い、総合商社は一般的に多角的な事業を展開しているが、一部の商社は依然として化石燃料に大きく依存している。特に三菱と三井の化石燃料への依存度は高く、2023年度の純利益の少なくとも30%が化石燃料関連事業によるものだ。(注2) これらの企業は、化石燃料への過度な依存を改める意志を示していない。その結果、我々が共有する気候だけでなく、グローバルな気候目標を達成するために急速な脱炭素化が求められる経済における自らの事業見通しも危険にさらすことになる。データは、日本国内のガス需要が減少しているにもかかわらず、日本企業が南アジア・東南アジア諸国に高価で環境汚染の原因となる不安定な化石燃料への依存を強いていることを示している。これらの化石燃料輸入国は供給途絶や価格変動の影響を極めて受けやすいため、この地域のエネルギー転換とエネルギー安全保障の必要性を脅かすものである。

この報告書の後半では、日本企業が関与するプロジェクトの環境、社会、ガバナンスに関する争点に焦点を当てる。ケーススタディにより、日本企業の財政的リスクの高い化石燃料事業のために、地域社会や自然環境が犠牲になっていることが浮き彫りになっている。

再生可能エネルギーへの移行を怠れば、これらの日本企業の長期的な事業展望に深刻な影響が及び、グローバルな競争力を維持することが一層困難になる。また、これらの企業が日本経済で果たす重要な役割や世界規模の影響力を考慮すれば、事業失敗がアジア新興国を含む主要な貿易相手国にも甚大な悪影響を与える可能性がある。

出典

注1: 各社の開示情報については以下等を参照のこと:伊藤忠商事JERA丸紅三菱商事三井物産双日住友商事豊田通商

注2:これらの企業が化石燃料関連事業と非化石燃料関連事業に分けた利益を公開していないため、その内訳を正確に把握することは不可能だ。ほとんどの場合、各セグメントには化石燃料関連事業と非化石燃料関連事業の両方が含まれ得る。例えば、「鉱物資源」セグメントには、石炭、石油、ガス、そして鉄鉱石などの鉱物が含まれ得る。同様に、「電力ソリューション」セグメントには、火力発電と再生可能エネルギー発電の両方が含まれ得る。本分析では、明らかに化石燃料に関連するセグメントまたは投資案件のみを含めた。

免責事項

Market Forcesがまとめたプロジェクトリストは、世界中のすべてのガス、LNG、太陽光、風力プロジェクトを網羅したものではない。Market Forcesは、本レポートで提供する分析および情報が健全なものであるよう最大限の努力をしているが、外部情報源から収集したデータの精度や正確さを保証するものではない。

Market Forcesは、金融機関にフォーカスした環境保護団体であり、金融アドバイザーではない。本資料は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、金融アドバイスとして受け取られるものではない。

Market Forcesは、本レポートで提供された情報の使用に起因するいかなる責任も負わない。本レポートの日本語への翻訳は第三者によって行われた。本レポートの日本語訳は第三者によるものであり、引用する場合は原文である英文報告書をご参照されたい。

本レポートは、一般への配布のみを目的とした非商用製品である。非売品。

Join us

Subscribe for email updates: be part of the movement taking action to protect our climate.

Name(Required)