要点:
- LNGへの依存は、日本や他の国々を激しい価格変動と財務リスクにさらす。
- LNGに切り替えても脱炭素にならない。
- 日本企業が進めるアジアのLNG開発が、パリ協定で世界が目指す気候目標達成を頓挫させ、日本の評判を脅かす恐れがある。
- 再生可能エネルギーを拡大し、LNGから移行することが、日本のエネルギー自給率向上につながる。
ガス(LNG)事業に関する真実
1, LNG依存は価格変動が激しく財務リスク大
LNGへの依存が強まるほど、私たちのエネルギーシステムはより脆弱化します。LNGは国際情勢に左右されやすい、価格変動の激しい化石燃料だからです。三菱商事やJERA(東京電力と中部電力の合弁会社)などの企業のみならず、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼る日本にとってはなおさら、極めて財務リスクが高い資源と言えるでしょう。
日本の平均LNG輸入価格は、2020年のMMBtuあたり7.78米ドル/から直近では20米ドルに高騰し、未契約のLNG価格はMMbtuあたり70ドルに達しています。このことからも分かる通り、中長期的なLNG価格を見通すことは困難です。[表1]
また、日本は輸入LNGに年間3兆円も費やしており(2020年)、貿易赤字の拡大を招いています。[1] 財務省が発表した貿易統計によると、エネルギー価格の上昇や円安が原因となり、2022年8月に貿易赤字が1か月としては過去最大の2兆8000億円を記録しました。[表2]
表1:アジアにおける未契約LNG価格
出典:Bloomberg 注:日韓の前月限指標
エネルギー経済・金融分析研究所(IEEFA)によれば、LNGの価格高止まりと燃料供給の不安定化による輸入量減少によって、「新しい輸入基地が使われなくなり、座礁資産として数十億ドルのコストがかかる可能性がある 」と警鐘をならしています。
国際エネルギー機関のWorld Energy Outlook 2022によると、2050年までのネットゼロエミッション(NZE2050)シナリオでは、「既存または建設中のものを超える追加の(LNG)容量の必要性はない 」とされています。NZE2050では、LNG貿易は2030年代半ばまでに半減し、その後2050年までさらに減少すると推測されています。
日本や他の国々がパリ協定を達成するためには、LNGの需要が減少する必要があり、LNGを含めた脱化石燃料の動きが世界で加速すると、LNG資産は不要になります。そうなると、LNGに関与する三菱商事やJERAといった日本企業は座礁資産を抱えることになり、長期的な収益性に影響を及ぼす可能性があります。さらに、LNGへの継続的な投資は、機会損失を考えると問題です。この投資は、代わりに再生可能技術の導入に使うことができるはずです。
2, LNGに切り替えても脱炭素にならない
「LNGは環境にやさしい」とアピールする企業は、LNGのライフサイクル全体での環境負荷を軽視していることが多いのです。燃焼に加えて、採掘、加工、貯蔵、輸送に伴う排出量を合わせると、輸入LNGは大量の温室効果ガスを排出します。石炭からガスに切り替えても、ライフサイクル全体では大量の温室効果ガスを排出するため、排出量実質ゼロの達成を蔑ろにしていることとなります。
最近の分析によると、火力発電の燃料を石炭からガスに切り替えても脱炭素につながらず、パリ協定の気候目標を達成できるほどの温室効果ガス削減につながらないことが明らかになっています。[表3]
気候危機による、異常気象の頻発化と深刻化を回避するために必要な、1.5度目標を達成するためには、今後20年間でガス発電量を90%減少させる必要があります。
したがって、石炭からLNGへの切り替えは、排出量実質ゼロの達成にふさわしくありません。
表3:Bloomberg New Energy Finance (BNEF) のシナリオにおける世界の電力セクターの排出量
出典:Bloomberg New Energy Finance「New Energy Outlook 2019」のデータを元にOil Change Internationalが作成した資料を参照
汚染を引き起こす日本企業の問題
日本企業が進めるアジアのガス(LNG)開発が、パリ協定で世界が目指す気候目標達成を頓挫させ、日本の評判を脅かす恐れがある。
バングラデシュ、タイ、ベトナムは、アジアでガス火力発電事業の拡大が最も著しい国々です(中国を除く)。最新の調査はこの三国を対象とし、アジアでガス(LNG)の開発に最も積極的でパリ協定の気候目標達成を蔑ろにしている日本企業を特定しています。
日本企業が支援を予定しているLNG火力発電事業の計画は合わせて15件に上り、これらの事業によって火力発電容量は33.2GW増強されます。こうした発電事業以外にも、日本企業が関与するLNG輸入ターミナルや浮体式LNG貯蔵再ガス化設備(FSRU)が7件計画されています。JERA(東京電力と中部電力の合弁会社)、三菱商事、三井住友フィナンシャルグループなどの企業が関与しています。[表4]
バングラデシュで計画されているLNG発電設備が建設されれば、日本の2030年の目標排出削減量の2倍以上もの温室効果ガスを排出することになります。
表4:計画段階にあるLNG TO POWERプロジェクトに関与する日本企業
Order | wdt_ID | 日本企業 (予備調査を除く全ての役割) | 事業数 | 合計容量 |
---|---|---|---|---|
1 | 1 | JERA | 5 | 11,600 |
5 | 2 | 三菱商事 | 1 | 1,500 |
2 | 3 | 住友商事 | 2 | 6,200 |
3 | 4 | JBIC | 3 | 6,150 |
4 | 5 | ENEOS(旧JXTG) | 1 | 6,000 |
6 | 6 | 東京ガス | 2 | 4,700 |
7 | 7 | 三井住友フィナンシャルグループ | 3 | 4,400 |
8 | 8 | 三井物産 | 2 | 3,830 |
10 | 9 | 九州電力 | 3 | 3,100 |
10 | 10 | 双日 | 3 | 3,100 |
9 | 11 | 大阪ガス | 1 | 3,200 |
12 | 12 | 電源開発(J-POWER) | 1 | 3,000 |
13 | 13 | 丸紅 | 2 | 2,900 |
日本企業が関与する全15件のLNG火力発電事業計画(33.2 GW)は、稼働期間を通して二酸化炭素に換算して21億4000万トンの温室効果ガスを排出すると推定されます。この数字には、日本企業が環境影響評価や予備調査の段階で関与している事業は含まれません。これは、パリ協定の目標達成に向けた「国が決定する貢献(NDC)」の下で日本が掲げている2030年の目標削減総量の3倍以上に相当します。[2]
再生可能エネルギーを拡大し、LNGから移行することが、日本のエネルギー自給率向上につながる
世界的には、価格変動が大きく、二酸化炭素の排出量が多い化石燃料と比較し、より費用対効果が高く価格も安定している再生可能エネルギーをエネルギーミックスの一部として増やす傾向にあります。
再生可能エネルギーの導入を支援する政府間組織であるIRENAによると、”2018年以降、再生可能エネルギーが化石燃料と競合するだけでなく、新たな発電容量が必要となった際には化石燃料に対して大幅に優位となる傾向にあることがデータから示唆されています。”と記載されています。Carbon Trackerは、日本、韓国、ベトナムでの太陽光発電と陸上風力発電の新規開発は、2025年までに新規ガスユニットよりも既に安価であるか、あるいは投資全体が安価になるとしています。
日本にも再生可能エネルギー導入ポテンシャルが豊富にあり、太陽光や風力エネルギーの潜在力を活かすことで、エネルギー需要の100%を再エネで賄うことができます。また、これらは日本企業が高価なLNGを推し進めるベトナムなどの新興国においても同様のことが言えます。
出典:
[1](独法)石油天然ガス・金属鉱物資源機構「天然ガス・LNGデータハブ2022」より概算
[2] 日本のNDCの絶対排出量削減目標は、2013年基準からマイナス620 MtCO2-eである。出典:Climate Watch
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